「Eテレもしまじろうも見せていないけれど、これで大丈夫かな」と不安になったことはありませんか。結論から言うと、教育番組を見せないことが発達の遅れにつながるという研究データは見当たりません。この記事では、3歳前後の子どもを持つ方に向けて、公的機関のガイドラインと最新の研究をもとに「見せない選択」の妥当性と、本当に大切なポイントを整理します。
「見せないと遅れる」を示す研究は、実は見当たらない
まず知っておきたいのは、教育番組をめぐる研究の多くが「見せた場合にどうなるか」を調べたものであり、「見せなかった場合に遅れるか」を調べたものではない、という点です。
有名なのがセサミストリートに関する国際的な分析です。15カ国・24の研究・1万人以上のデータをまとめたところ、視聴していた子とそうでない子の間には、読み書きや計算などの認知面、社会性、世界についての知識などで平均11.6パーセンタイル(順位にすると全体の約1割強)の差が見られました。2〜3歳時点で良質な教育番組を見ていたことは、5歳時点の読み・算数・語彙・学校への準備度とも前向きな関連が報告されています。
なお、この分析は番組の制作元であるセサミワークショップの委託によるものです。つまり効果を示したい立場の研究でしたが、それでも示せたのは「見た子は伸びることがある」という上乗せの効果であって、「見なかった子が遅れる」ことではありませんでした。
ただしこれは「見た場合の上乗せ効果」を示すものです。「見なければマイナスになる」という意味ではありません。同じ上乗せは、絵本の読み聞かせや会話、外遊びといった別の経験からも得られます。教育番組は、言葉や知識を育てるための「数ある入口のひとつ」であって、必須の通り道ではないのですね。
公的ガイドラインはむしろ「見せすぎ」に注意を促している
国内外の公的機関が出している目安を並べてみると、方向性がはっきり見えてきます。
- 日本小児科医会「子どもとメディア」5つの提言(2004年):①2歳までのテレビ・ビデオ視聴は控える ②授乳中・食事中の視聴はやめる ③メディア接触の総時間は1日2時間まで(テレビゲームは30分まで)を目安に ④子ども部屋にテレビ等を置かない ⑤親子でメディア利用のルールを作る
- WHO(2019年):1歳未満と1歳は画面接触を推奨せず、2〜4歳は座ったままの画面接触を1時間以内に(少ないほど良い)。座って過ごす時間には、画面の代わりに保護者との読み聞かせや物語を勧めています
- 米国小児科学会(AAP):18ヶ月未満はビデオ通話以外の画面接触は非推奨。18〜24ヶ月は保護者と一緒に良質な番組を見て会話することが望ましく、2〜5歳は良質な教育番組を1日1時間まで
お気づきでしょうか。どのガイドラインにも「見せなければ発達が遅れる」という記載はなく、注意喚起はすべて「見せすぎ」「一人で見せっぱなし」の方向に向いています。つまり、見せていないご家庭は、ガイドラインの精神にむしろ忠実な状態と言えます。
日本の幼児のテレビ視聴時間は、1日あたり2時間半前後という調査報告があり、公的な目安を超えている家庭も少なくありません。「みんな見せているのにうちだけ」と感じるかもしれませんが、少数派であることと、望ましくないことは別の話です。なお「見せるとしたら何歳からが影響を受けやすいのか」については、縦断研究でわかった2つの山で整理しています。
実際に発達と関連していたのは「時間の長さ」だった
日本でも大規模な調査が行われています。国立成育医療研究センターと千葉大学が2023年に発表したコホート研究(57,980人が対象)では、1歳・2歳・3歳の3時点で、メディア視聴時間(0時間/1時間未満/1〜2時間/2〜4時間/4時間以上)と発達スコアの関連が調べられました。
その結果、1〜2歳では視聴時間が長いほどコミュニケーション領域の発達スコアに弱〜中等度のマイナスの関連が、2〜3歳では粗大運動・微細運動・個人-社会領域にも中等度の関連が確認されています。一方で、発達スコアが高い子ほど1年後の視聴時間が短くなるという逆方向の関連も見られており、研究チームは現段階で一律の視聴制限指導は推奨していません。
また、日本小児科学会の関連調査では、子どもが1日4時間以上・家族が8時間以上テレビをつけている家庭では、そうでない家庭に比べて意味のある言葉の出現が遅れる子どもの割合が約2倍という報告もあります。子どもが直接見ていなくても、つけっぱなしのテレビが親子の会話を減らすことについては、つけっぱなしテレビと言葉の発達でくわしく解説しています。
3歳の言葉の目安と、本当に効く関わり
言葉の発達には大きな個人差がありますが、おおよその目安は次のとおりです。
- 12ヶ月頃:2〜6語程度
- 18ヶ月頃:50語程度
- 24ヶ月頃:200〜300語、二語文(「パン ちょうだい」など)
- 30ヶ月頃:450語程度
- 36ヶ月(3歳)頃:1000語程度、三語文(「ママ おもちゃ とって」など)、「なぜ?」「これ何?」が増える
こうした伸びを支える主な要因は、映像の有無ではなく、実際のやりとりの量です。乳幼児期には「ビデオ・デフィシット」と呼ばれる現象が繰り返し確認されており、子どもは映像よりも実物・実演からの方が効率よく学べます。12ヶ月児では、2D映像から模倣して学ぶには、実物の約2倍のデモンストレーション回数と時間が必要だったという報告もあります。
読み聞かせのデータも心強いものです。エコチル調査のビッグデータ(約3万6千組の母子)を解析した東北大学の研究では、読み聞かせの頻度が高い家庭ほど、コミュニケーション・粗大運動・微細運動・問題解決・個人-社会という発達5領域すべてで良好な発達と関連していました。しかもこの関連は、親の学歴や世帯収入、一緒に遊ぶ時間、メディア視聴時間の影響を統計的に取り除いても有意に残っています。読み聞かせ頻度の高い家庭では、テレビ・DVDの視聴時間が短い傾向も見られました。
3歳前後は「なぜ?」が爆発する時期でもあります。3歳向けの読み聞かせ絵本や写真の多い幼児向け図鑑を、答えを一緒に探す道具として使うのもおすすめです。
見せる家庭も、見せない家庭も。それぞれのコツ
どちらの選択でも、押さえておくと役立つポイントがあります。
見せている場合:「一緒に見て、話す」
親が一緒に見て、注意を向けさせ、内容について会話する「共視聴」を行うと、2〜4歳児は映像からも新しい単語を学べることが分かっています。「あ、ぞうさんだね」「さっきの歌、もう一回歌ってみる?」と声をかけるだけで、受け身の時間がやりとりの時間に変わります。時間を決める、食事中は消す、子ども部屋には置かない——提言に沿ったルールづくりも合わせて。
見せていない場合:気にかけたいのは別の軸
見せない選択をしている場合、心配すべきは番組の有無ではなく、対話・読み聞かせ・外遊びといった実体験の総量です。メディアを見せていなくても、日々のやりとりが少なければ発達に影響しうるという点は、押さえておきたいところです。逆に言えば、絵本を読み、質問に答え、公園で体を動かしている毎日なら、教育番組がなくても心配は要りません。
言葉や発達のペースには本当に大きな個人差があり、2歳代後半から3歳代前半でも大きな幅があります。3歳児健診は絶好の相談機会ですし、気になることがあれば、かかりつけの小児科や地域の発達相談で、どうぞお気軽に聞いてみてくださいね。