家事の合間、「子どもは遊んでいるだけだから」とテレビをつけっぱなしにしていませんか。実は研究では、「子どもが画面を見ているか」ではなく「音や光がついている環境そのもの」が親子の会話を減らすことが繰り返し示されています。この記事では0〜6歳を中心に、背景メディア(バックグラウンドメディア)と言葉の発達の関係、そしてテレビをゼロにしなくてもできる小さな工夫を整理します。
「見ていない」テレビが、まず親の言葉を減らす
最初に知っておきたいのは、背景テレビにさらされる時間が想像以上に長いということです。全米を代表するサンプルを使った調査(Lapierre et al. 2012年、小児科の専門誌 Pediatrics 掲載)では、生後24ヶ月未満の子どもは平均して1日あたり約5.5時間、直接見ていなくてもついているテレビにさらされていました。
そして、テレビがついている間に先に変わるのは、子どもよりも「親の話し方」です。1〜3歳の子がいる家庭を観察した研究(Kirkorian et al. 2009年、発達心理学の専門誌 Child Development 掲載)では、テレビがついている時間帯は、親が遊びに関わる度合いや声かけの量・質が有意に低下していました。同じ時期に行われた別の研究(次に紹介するChristakisら)では、テレビがついている間、大人の発話量は1時間あたり500〜1,000語少なくなると報告されています。
2014年の研究でも、背景テレビがある状況では、親が子どもに向けて話す1分あたりの単語数・発話数・新しく登場する語の数が、生後12ヶ月・24ヶ月・36ヶ月のいずれの月齢でも減っていました。
減るのは語数だけでなく「やりとりの回数」
言葉は、シャワーのように一方的に浴びるだけでは育ちにくく、「話しかける→子どもが反応する→大人が受け止める」というやりとりの往復が大切だと考えられています。
家庭に小型の録音機を付けて24時間の音声を自動分析した研究(Christakis et al. 2009年)では、テレビの音が聞こえている時間は、大人の発話語数、乳児の発声の数、そして大人と子どもの「会話のターン(やりとりの往復)」の数が、いずれも有意に減っていました。親の言葉が減るだけでなく、赤ちゃん自身の声も減り、キャッチボールの回数そのものが落ちてしまうということですね。
日本のデータもあります。日本小児科学会(こどもの生活環境改善委員会)が2003年に3地域(首都・中核市・農村)の1歳6か月児健診で行った調査(1,900名)では、長時間テレビを視聴している子どもで言葉の発達が遅れる傾向が確認されました。特に、子どもが1日4時間以上視聴し、かつ子どもの近くで8時間以上テレビがついている家庭では、そうでない家庭(子ども4時間未満・家庭8時間未満)と比べて、有意語(意味のある言葉)の出現が遅れる割合が約2倍という結果でした。
もちろんこれは「テレビがついていた子の言葉が必ず遅れる」という話ではありません。言葉の発達には大きな個人差があり、背景メディア以外の要因もたくさん関わっています。
年齢と「場面」によって影響は変わる
すべての背景テレビが一律に悪い、というほど単純でもありません。近年は「どんな場面でついているか」に注目した研究が出てきています。
就寝中・一人遊び中はリスクが高め
2021年に Pediatric Research 誌で報告された研究では、就寝中の背景テレビは全年齢で実行機能(自分の注意や行動をコントロールする力)の低さと関連していました。また、一人遊びの最中の背景テレビは、未就学児で実行機能の低下と関連していました。一方で、誰かと一緒に遊んでいる場面の背景テレビは、学齢期の子どもではむしろ実行機能の高さと関連しており、文脈によって結果が変わることが示されています。
展開の速い番組にも目を向けて
2024年に BMC Psychology 誌に掲載された複数研究のまとめでは、番組の展開の速さ(場面がどんどん切り替わるテンポ)が、未就学児の注意力や実行機能に直後の影響を与えることが、複数の研究で支持されています。
参考までに、平均的な注意の持続時間は2歳で約4〜6分、3歳で約6〜9分、4歳で約8〜12分ほどとされます。テンポの速い映像は、この短い集中の"基準"をはるかに超えるスピードで刺激を送り続けることになります。
音楽はテレビと同じではない
視覚メディア(テレビ・動画)は光と動きで注意を引くため、想像力を使った遊びを妨げやすいと指摘されています。一方、視覚刺激のない音楽については同程度の悪影響が確認されにくく、歌やダンスが主な活動になっている場面では、むしろ発達を後押しする面もあるとされています。「静かすぎると落ち着かない」という場合、テレビの代わりに赤ちゃんから楽しめる童謡のCDなどをかける、という置き換えは現実的な選択肢のひとつです。
今日からできる「消すタイミング」の優先順位
テレビを完全にゼロにする必要はありません。効果が出やすい場面から順に消していくほうが、忙しい家庭では続けやすい方法です。
- 食事中・授乳中:向かい合って表情をやりとりする機会を、最も奪いやすい場面です。日本小児科医会の提言でも、授乳中・食事中の視聴をやめることが挙げられています。
- 子どもが一人で遊んでいるとき:未就学児では実行機能の低下との関連が指摘されている場面です。
- 就寝前・寝ている間:全年齢で実行機能の低さと関連が見られた場面。子ども部屋にテレビを置かないことも提言に含まれます。
- 「なんとなくつけている」時間:見たい番組が終わったら消す、を習慣に。コンセントに挟むタイプのテレビタイマーで、物理的に区切りをつくっている家庭もあります。
見直したいのはテレビだけではありません。テキサス大学オースティン校の研究では、母親がスマートフォンを使っている間、乳児への語りかけ量が約16%減少すると報告されています。「ながらテレビ」と「ながらスマホ」は、同じ仕組みで会話を減らしているのですね。1日のうち10分でも、画面を伏せて子どもの声に応える時間をつくれれば、それは十分に意味のある一歩です。
公的な目安と、よくある3つの誤解
日本小児科医会「子どもとメディア」対策委員会の提言(2004年2月6日)は、次の5点を挙げています。
- 2歳までのテレビ・ビデオ視聴は控える
- 授乳中・食事中のテレビ・ビデオ視聴はやめる
- メディア接触の総時間は1日2時間までを目安にする
- 子ども部屋にテレビ・ビデオ・パソコンを置かない
- 家庭内でメディア利用のルールをつくる
米国小児科学会(AAP)の「Media and Young Minds」(2016年、Pediatrics 誌)も、生後18〜24ヶ月未満は原則としてスクリーンメディアを避ける(ビデオ通話は除く)、2〜5歳は質の高い番組を1日1時間までとし、保護者が一緒に見ることを推奨しています。
最後に、つまずきやすいポイントを整理しておきます。
- 「子どもが画面を見ていなければ影響はない」:見ているかどうかより、音や光がついている環境そのものが親の発話量を減らし、結果として子どもが受け取る言葉を減らします。
- 「大人向けの番組なら子どもには関係ない」:内容が子ども向けでなくても、背景音があること自体が親子の会話や遊びの質を下げることが、複数の研究で確認されています。
- 「テレビも音楽も同じように悪い」:視覚刺激を伴う映像と、視覚刺激のない音楽では影響の出方が異なります。歌やダンスの場面は、むしろ親子のやりとりを増やすきっかけになります。
言葉の発達のペースには、とても大きな個人差があります。「昨日つけっぱなしにしてしまった」と自分を責める必要はまったくありませんので、食事の時間だけ消してみる、といった小さな置き換えから始めてみてくださいね。お子さんの言葉の発達が気になる場合は、1歳半健診や3歳児健診の機会に、あるいはかかりつけの小児科や地域の発達相談で、ぜひお気軽に相談してみてください。