「おもちゃがたくさんあるのに、どれもすぐ飽きてしまう」——そんな光景に心当たりはありませんか。海外の研究では、子どもが同時に手にできるおもちゃの数を減らすと、一つの遊びに長く関わり、遊び方の幅も広がることが報告されています。買い足すのではなく「出し方」を変える工夫を、研究をもとに整理しました。
「4個」と「16個」で、遊び方はこう変わった
アメリカのトレド大学(University of Toledo)の Dauch らが2018年に発表した研究は、生後18〜30ヶ月の幼児36人を対象に、おもちゃが4個ある部屋と16個ある部屋で自由に遊んでもらい、その様子を観察しました。
結果はわかりやすいものでした。おもちゃが4個の条件では、遊びの持続時間が長くなり、一つのおもちゃに対する遊び方も多様だったのです。積む、分解する、何かに見立てる、型にはめる——同じおもちゃひとつでも、子どもは次々と違う関わり方を見つけていきました。
一方、16個ある条件では、1回あたりの接触時間が短く、次々とおもちゃを移り変わる行動が多く見られました。目の前にたくさんあると、一つを深く味わう前に次が気になってしまう、というわけですね。
少ないほうが、親子のやりとりも濃くなる
もう一つ、より小さい月齢を対象にした研究があります。Koşkulu らが2021年に発表した研究では、生後12ヶ月の赤ちゃんとお母さんのペアに、おもちゃ5個の条件と12個の条件で自由に遊んでもらいました(いずれも Infant Behavior and Development 誌に掲載)。
注目されたのは「共同注意」、赤ちゃんと大人が同じものに一緒に注意を向け合うやりとりです。研究では、おもちゃが5個のほうが共同注意の続く時間が長く、質の高いやり取りが多かったと報告されました。12個の条件では、共同注意のエピソードはより頻繁に起きるものの、一つひとつは短時間で終わっていました。
声かけの工夫よりも先に、片付けが効くこともあるのかもしれません。なお、この研究は12ヶ月の赤ちゃんを対象にしたものです。幼児期や学童期にもそのまま当てはまるかは、まだ研究で確認されていない点にご注意ください。
なぜ「多すぎる」と選べなくなるのか
子どもに限らず、選択肢が多すぎることが判断や満足度を下げる現象は、心理学で以前から指摘されてきました。大人を対象にした有名な研究に、Iyengar らが2000年に発表した「ジャム実験」があります。試食販売で並べるジャムを6種類にしたときのほうが、24種類にしたときより購入率が高く、選んだ後の満足度も高かったというものです。子どもとおもちゃを扱った研究ではありませんが、「選択肢が多いほど良いとは限らない」という心のはたらきを示す手がかりになります。
教育の現場でも共有されてきた考え方
マリア・モンテッソーリが提唱した教育理論では、子どもが特定の活動に深く没頭する状態を「集中現象」と呼び、限られた数の教具を整理して提示する環境が、この状態を引き出しやすいと説明されています。これは実証研究ではなく教育理論・実践知ですが、先ほどの研究結果と重なる方向を向いています。
日本でも、厚生労働省の「保育所保育指針解説」(平成30年2月)が、玩具などの物的環境は、音質・形・色・大きさなど子どもの発達状態に応じて適切なものを精選することが重要だとしています。「たくさん揃える」ではなく「選ぶ」という言葉が使われているのですね(なお、この解説はおもちゃの個数の上限を示しているわけではありません)。
高いおもちゃでなくていい、という安心材料
米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)が2018年に発表した臨床報告「The Power of Play」は、遊びが、目標を追いかけて余計な刺激を無視する力(実行機能)を含む脳の構造と機能を育てることをまとめています。
そのなかで、光や音が出る電子的なおもちゃよりも、積み木やパズルのような伝統的でシンプルなおもちゃで遊んだときのほうが、子どものことばの質・量が向上したと述べられています。そして同報告は「高価で凝ったおもちゃを買う必要はない」と明記しています。
「うちは知育玩具をあまり買ってあげられていない」と感じている方には、心強い一文ではないでしょうか。積み木のように遊び方が決まっていないものほど、子ども自身が遊びを発明する余地が残ります。すでに家にあるもので十分です。
今日からできる「おもちゃローテーション」
総量を減らさずに研究の知見を活かす方法が、一部を箱にしまっておき、定期的に入れ替える「ローテーション」です。
- 今あるおもちゃを全部並べる:まず見える化します
- 3〜4グループに分ける:積む・動かす・見立てる・手先を使う、など種類が偏らないように
- 1グループだけ出しておく:残りは蓋付きの収納ボックスへ
- 飽きてきたら入れ替える:1〜2週間が目安。子どもの様子を見て調整を
- 「今のお気に入り」は常設でOK:毎日手に取るものまで隠す必要はありません
しまってあったおもちゃを出すと、久しぶりで新鮮に感じ、新しい遊び方が生まれることもあります。買い足さずに「新しいおもちゃ」が生まれるのは、家計にもうれしいところですね。
何個が正解、はありません
「では何個がいいの?」と気になりますが、研究で使われた4個や5個という数は、実験室で比較するために設定されたもので、家庭でそのまま守るべき基準ではありません。年齢や発達段階、遊ぶスペース、きょうだいの有無によって、ちょうどよい数は変わります。
目安にしたいのは数字より、お子さんの様子です。一つの遊びが続かず次々に移っていく、床が散らかっていて何から手をつけるか決められない——そんなときは、少し減らしてみる価値があるサインかもしれません。逆に、じっくり遊べているなら、今の環境が合っているということです。
なお、3歳以降の子どもにおもちゃの数がどう影響するかは、今回紹介したような直接的な研究データが見当たりませんでした。この時期はごっこ遊びなど想像力を使う遊びが広がる頃で、遊びの形そのものが変わっていきます。数の話は参考程度にとどめ、手先を使う遊びや外遊びも織り交ぜながら、夢中になれるものを探していけるといいですね。
まとめ
必要なのは、買い足すことではなく、今あるものをどう出すか。おもちゃが4個の環境では遊びが長く多様になり(Dauch ら 2018年)、5個の環境では親子の共同注意が長く続きました(Koşkulu ら 2021年)。片付けのついでに少しだけ箱にしまってみる——それだけで、お子さんの遊びが変わるかもしれません。遊び方や集中の様子には大きな個人差がありますので、気になることがあれば健診や地域の子育て相談で気軽に聞いてみてくださいね。