「寝る前のスマホは禁止しているのに、うちの子はなかなか寝つかない」——そんな経験はありませんか。実は、見落とされがちな原因が天井のLEDやリビングの照明そのものにあります。子どもは大人よりはるかに光に敏感で、ふつうの部屋の明るさでも睡眠ホルモンが大きく抑えられてしまうのです。この記事では、照明と体内時計の関係、そして今夜から試せる照明の見直し方を、科学的根拠とともにお伝えします。
「普通の部屋の明るさ」でも子どものメラトニンは抑えられる
夜になると分泌が増える「メラトニン」というホルモンが、私たちを自然な眠りへ導きます。このメラトニンは、目に入る光によって分泌が抑えられる性質があります。問題は、その感受性が子どもと大人で大きく違うことです。
九州大学の樋口重和さんらの研究(2014年)では、小学生(平均9.2歳)と成人(平均41.6歳)を比べたところ、自宅の室内光(平均140ルクス)によるメラトニン抑制率は、子どもが88.2%、大人が46.3%でした。つまり子どもは大人の約2倍も光の影響を受けていたのです。140ルクスとは、ごく一般的なリビングや子ども部屋の明るさです。
なぜ子どもはこれほど光に敏感なのでしょうか。樋口さんによれば、子どもは目の水晶体の透明度が高く、瞳孔(ひとみ)も大きいため、同じ光量でも大人より多くの光が網膜に届きます。光は目から「視交叉上核(しこうさじょうかく)」という体内時計の中枢に伝わり、ホルモン分泌や体温、自律神経に作用します。これが、見た目の明るさ以上に子どもの眠りを妨げる理由です。
薄暗い光でも影響は残る — 海外の研究が示すこと
「では、少し暗くすれば大丈夫?」と思うかもしれません。ところが、研究はもっと厳しい現実を示しています。
アメリカ・コロラド大学のLeBourgeoisさんらの研究(2018年)では、就寝1時間前に約1,000ルクスの明るい光を浴びた幼児(平均4.3歳)のメラトニン抑制率は平均87.6%にのぼりました。さらに、光を消してから50分以上たっても、多くの子でメラトニンは元に戻らなかったのです。
同じグループの2022年の研究では、5ルクスから5,000ルクスという幅広い明るさで調べても、幼児のメラトニン抑制率は平均85.4%でした。驚くことに、5ルクスというごく薄暗い光でも平均78%抑えられていました。つまり「ちょっと暗くした」程度では、子どもの体内時計への影響は思ったほど減らないということです。
光の「色」も関係します。Hartsteinさんらの研究(2025年)では、3〜5歳児を対象に電球色(2,700K)と昼白色(5,000K)を比較したところ、どちらの色でも子どもは大人より大きくメラトニンが抑制され、特に青白い光(高色温度)で影響が大きいことが分かりました。Leeさんらの研究(2018年)でも、青色光を多く含む白色LEDを浴びた子は、メラトニンが抑えられるだけでなく寝る前の眠気そのものが低下していました。
日本の子どもは世界最短クラスの睡眠時間
照明環境が注目される背景には、日本の子どもの睡眠の短さがあります。博報堂教育財団の調査(2025年3月)によると、小学生の平均睡眠時間は8時間56分、中学生は7時間57分で、いずれも推奨される時間を下回っています。「夜遅くまで起きている」という睡眠の悩みは、3歳以上の7割以上で挙げられています。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、「こどもが夜に昼光色(青みがかった光)を見ると、薄暗い光を見たこどもと比べてメラトニン分泌量が少なくなり眠りにくくなる」と明記され、就寝前はスクリーンを避け、できるだけ暗くして寝ることが推奨されています。電気照明のない環境で育った青少年は、電気照明のある家庭の子より就寝時刻が有意に早かったという研究報告もあり、夜の光が就寝の遅れに直接関わっていることがうかがえます。
参考までに、睡眠ガイド2023が示す年齢別の推奨睡眠時間は次のとおりです。
- 1〜2歳: 11〜14時間
- 3〜5歳: 10〜13時間
- 6〜12歳: 9〜12時間
- 13〜18歳: 8〜10時間
今夜から試せる照明の見直しステップ
ここからは、家庭でできる具体的な工夫です。完璧を目指す必要はありません。できるところから少しずつ取り入れてみましょう。
明るさ(照度)の目安
日本産業規格(JIS)では、睡眠を妨げない明るさの目安を20ルクス以下としています。研究者の中には、就寝3時間前から10ルクス以下を理想とする人もいます。実用的には、就寝1〜2時間前に50ルクス程度(電球色の間接照明くらい)を目標にすると取り組みやすいでしょう。天井のシーリングライトを煌々(こうこう)とつけたままにせず、夕食後は間接照明や調光に切り替えるのがおすすめです。
色温度(光の色)の目安
夜間の子ども部屋やリビングは、電球色(2,700〜3,000K)のあたたかい光が向いています。昼白色(5,000K)や昼光色(6,500K)といった青白い光は、夕食後以降は避けましょう。最近は時間帯で明るさと色を切り替えられる調光・調色機能つきのシーリングライトも増えており、夜だけ電球色に落とす使い方が便利です。手持ちの照明を活かしたい場合は、電球色のLED電球(2700K)に交換するだけでも雰囲気が変わります。
年齢別の意識したいポイント
- 0〜2ヶ月: 体内時計はほぼ未発達。夜の世話に照明は必要ですが、フットライト程度の最小限の暖色光が理想。昼は日光を浴びさせて昼夜の差をつくります。
- 6ヶ月〜3歳: 夜のメラトニン感受性が高い時期。就寝1〜2時間前から天井照明を暖色・低照度に切り替えると入眠を促せます。
- 3〜6歳: 帰宅後にリビングで過ごす18〜21時の照明の影響が最も大きい時間帯です。
- 6〜12歳: シーリングライトの色温度切替を使い、19時以降は電球色に。
- 13歳以上: 思春期は体内時計が生物学的に夜型へ傾きやすく、夜の明るい光がそれをさらに強めます。受験期でも22時以降は部屋の電気を落とす習慣を。
なお、深い睡眠中には成長ホルモンが多く分泌されるため、睡眠の質を整えることは体の成長にもつながります。身長の伸びが気になる方は、成長ナビゲーターでお子さんの成長カーブを確認しながら、睡眠環境も合わせて見直してみるとよいでしょう。
まとめ — 電球を換えるだけで変わるかもしれない
子どもがなかなか寝つかないとき、原因はスマホだけではないかもしれません。子どもは大人の約2倍も光に敏感で、ふつうの部屋の明るさでもメラトニンが大きく抑えられてしまいます。鍵になるのは、就寝1〜2時間前から「暗めに・あたたかい色に」すること。シーリングライトの調光・調色や電球の交換など、できる工夫から始めてみましょう。睡眠には個人差があり、生活リズムの改善には時間がかかることもあります。気になる睡眠の悩みが続く場合は、かかりつけの小児科医に相談してくださいね。