「上の子は本当に手がかからなかったのに、下の子は全然違う」「うちの子はほかの子より扱いにくい気がする」——そんな戸惑いを抱えるママ・パパは少なくありません。赤ちゃんの「育てやすさ・育てにくさ」は、この先もずっと続くのでしょうか。発達科学は「気質にはある程度の一貫性がある一方で、関わり方次第で表れ方は大きく変わる」と示しています。この記事では、気質研究の知見をもとに、その中庸で科学的な答えを整理します。
そもそも「気質」とは — 生まれ持った反応のクセ
気質(temperament)とは、生まれつき備わっている「刺激への反応の仕方」や「感情の表れ方」の個人差のことです。しつけや教育で身につく「性格」とは区別され、より早い時期から観察できる、生物学的な土台と考えられています。
気質研究の出発点となったのが、トマスとチェスによるニューヨーク縦断研究(1956年開始)です。この研究では、乳児の気質を9つの特性(活動水準、生活リズムの規則性、新しいものへの接近・回避、順応性、反応の強さなど)で評価しました。そのうえで子どもを大きく3タイプに分類しています。
- 扱いやすい子(イージー):約40% — リズムが規則的で機嫌がよく、新しい環境にも比較的なじみやすい
- 扱いにくい子(ディフィカルト):約10% — リズムが不規則で、新しいものへの反応が激しく、順応に時間がかかる
- 出だしの遅い子(スロー・トゥ・ウォームアップ):約15% — 最初は引っ込み思案だが、時間をかけると慣れていく
残りは複数の特徴が混ざった混合型です。つまり「育てにくい子」は全体の一部であり、多くの子はどこかに当てはまりきらないグラデーションの中にいます。
気質はどのくらい「続く」のか — 縦断研究が見せるもの
では、乳児期の気質はその後も続くのでしょうか。ここで重要になるのが、生後まもない時期の反応性を長期に追った研究です。
心理学者ケーガンの行動抑制(behavioral inhibition)研究では、新奇な刺激に対して泣いたり手足をばたつかせる「高反応」の乳児と、じっと注意深く見る「低反応」の乳児がいることが示されました。そして生後4ヶ月時点のこの反応性が、後の内向性・外向性をある程度予測することが分かっています。
さらに2020年に発表された研究(Tang, Crawford, Morales, Degnan, Pine, Fox, 2020年、165名を対象)は、生後14ヶ月時点の行動抑制を評価し、26歳まで約30年間追跡しました。その結果、生後14ヶ月で行動抑制が高かった群は、26歳時点で「より控えめな性格」「過去10年間の恋愛関係が少ない」「友人・家族との社会的なつながりの少なさ」を示す傾向がありました。
こうした知見は、気質にある程度の時間を超えた一貫性があることを裏づけています。実際、乳児期の気質の安定性は中〜大程度とされ、生後1年の気質特性は、平均8.4年後に測定された児童期の性格特性と有意な関連を示したという報告もあります。
なお、気質の安定性は評価する間隔が長くなるほど下がる傾向も報告されています。つまり、時間が経つほど「変わる余地」も大きくなるということです。
それでも「運命」ではない — 遺伝と環境の相互作用
「一貫性がある」と聞くと、「気質は生まれつきで変えられない運命」と感じてしまうかもしれません。しかし、ここが発達科学の最も伝えたいところです。
双子研究によると、気質の遺伝の影響(遺伝率)はおおむね40〜50%とされています。つまり残りの半分ほどは環境要因によるものです。実際、生後5ヶ月・18ヶ月時点のネガティブな感情の表れやすさについては、遺伝率が約31%、共有された家庭環境の寄与が約57.3%だったという報告もあります。
さらに興味深いのは、遺伝の影響度そのものが固定ではないという点です。ネガティブな感情の表れやすさに対する遺伝的な寄与は、親子関係の状態によって約20%から76%まで幅をもって変化しうると報告されています。温かく安定した親子関係は、反応性の高い気質の「表れ方」を穏やかにする可能性が示唆されているのです。
こうした背景から生まれたのが、トマスとチェスの「適合度(goodness of fit)」という考え方です。発達がうまくいくかどうかは、気質そのものの善し悪しではなく、子どもの気質と養育環境・関わり方がどれだけ噛み合っているかで決まる、という枠組みです。難しい気質を「矯正する」のではなく、理解して環境を調整する——これが子育て支援や保育の現場で広く共有されている基本姿勢です。
気質を「変える」より「合わせる」— 明日からの関わり方
では、具体的にどう関わればよいのでしょうか。ポイントは、気質を無理に変えようとするのではなく、その子に合った環境を整えることです。
2024年に発表されたシステマティックレビューでは、引っ込み思案・抑制的な気質の子どもに対して、過保護・過干渉で挑戦の機会を奪う関わり方が、気質と社会不安の症状との関連を強める可能性が指摘されています。一方で、親が新しい状況への挑戦をそっと後押しすると、内気な子どもがより社交的に育ちやすいという知見もあります。
日常でできる工夫として、次のようなものが挙げられます。
- 見通しを立てる — 新しい場所や予定を「今日は◯◯に行くよ」と事前に伝え、心の準備の時間をつくる
- 慣れる時間を保証する — 出だしの遅い子には、いきなり輪の中に入れず、少し離れた場所から様子を見る時間を許す
- 刺激の量を調整する — 反応の強い子には、一度にたくさんの新しいことを詰め込みすぎない
- 小さな挑戦を後押しする — 先回りして守りすぎず、「やってみる?」と背中をそっと押す機会を残す
新しい環境になじむ練習には、新しい場所や集団に慣れることをテーマにした絵本を親子で読むのも、見通しを持たせる一つの方法です。
よくある3つの誤解
最後に、気質をめぐって親が抱えがちな誤解を整理しておきます。
- 「育てやすい赤ちゃん=将来も手のかからない子」 — 気質の連続性は中程度で、環境次第で表れ方は大きく変わります。今の育てやすさが将来を保証するわけではなく、逆もまた然りです。
- 「育てにくいのは親の育て方が悪いから」 — 気質は遺伝率40〜50%程度の、生まれつきの生物学的傾向です。しつけの失敗の結果ではありません。この誤解は親の罪悪感を不必要に高めてしまいます。
- 「気質は一生変わらない」 — 遺伝の影響の強さ自体が親子関係の質で変わりうるように、環境が「表れ方」に働きかける余地は大きく残されています。
もう一つ心に留めておきたいのは、「うちの子は難しい気質だから将来が心配」という不安そのものが、親子関係にストレスを持ち込み、悪循環(気質→行動→親の反応→ストレス増大)を生むことがある点です。まずは「これは個人差」と受けとめることが、その循環をゆるめる第一歩になります。
気質は、変えるべき欠点ではなく、理解して付き合っていくその子の個性です。今のわが子の気質を知り、それに合った関わり方を選ぶこと——それが、将来の適応を穏やかに支えていきます。気になる点が続く場合や、育児の負担が大きいと感じるときは、一人で抱えこまず、地域の子育て相談窓口やかかりつけの小児科にも気軽に相談してみてくださいね。